春闘の賃上げ率はどう推移してきた?1965年からの60年と2026年5.18%の位置
2026年の春闘は、民間主要企業の平均妥結額18,167円、賃上げ率5.18%で決着しました。 2年連続の妥結額18,000円台、3年連続の賃上げ率5%台です(厚生労働省「令和8年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」、公表日2026-07-31)。
「5%台」がどれくらい特別なのかは、長期の推移に置くと分かります。 同じ資料の第2表は1965年(昭和40年)以降の推移を収録しており、5%台は約30年ぶりの水準帯です。 ただしこの数字は定期昇給込みで、大企業の集計であるという2つの前提を確認する必要があります。
この統計が数えているもの
厚生労働省の集計対象は、妥結額などを把握できた資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の労働組合のある企業で、2026年は428社です。 数値は各企業の組合員数による加重平均です(厚生労働省の同資料)。
重要な注意が2つあります。
- 妥結額は原則として定期昇給込みです。賃金カーブ上を1年分進む定昇と、賃金水準自体を引き上げるベースアップ(ベア)の合計であり、「基本給が5.18%底上げされた」という意味ではありません。
- 大企業の集計です。労働者の多くが働く中小企業や、組合のない企業は含まれません。
1965年からの60年推移
節目の年を抜粋します(厚生労働省・同第2表「民間主要企業における春季賃上げ状況の推移」、公表日2026-07-31)。
| 年 | 妥結額 | 賃上げ率 | 局面 |
|---|---|---|---|
| 1965年 | 3,150円 | 10.6% | 高度成長期(収録開始) |
| 1970年 | 9,166円 | 18.5% | 高度成長期 |
| 1974年 | 28,981円 | 32.9% | 第一次石油危機・史上最高 |
| 1980年 | 11,679円 | 6.74% | |
| 1990年 | 15,026円 | 5.94% | バブル期ピーク |
| 1995年 | 8,376円 | 2.83% | |
| 2000年 | 6,499円 | 2.06% | |
| 2003年 | 5,233円 | 1.63% | 系列中最低 |
| 2010年 | 5,516円 | 1.82% | |
| 2015年 | 7,367円 | 2.38% | |
| 2020年 | 6,286円 | 2.00% | |
| 2022年 | 6,898円 | 2.20% | |
| 2023年 | 11,245円 | 3.60% | |
| 2024年 | 17,415円 | 5.33% | |
| 2025年 | 18,629円 | 5.52% | |
| 2026年 | 18,167円 | 5.18% | 3年連続5%台 |
推移の形は次のとおりです。
- 最高は第一次石油危機直後の1974年の32.9%です。狂乱物価と呼ばれた物価急騰の年で、この水準は以後一度もありません。
- バブル期は1989~1992年に5.17~5.94%で推移しました。
- その後は長い下り坂で、2002年から2022年まで約20年間、1.63~2.38%の狭い帯に収まり続けました。底は2003年の1.63%です。
- 2023年の3.60%で帯を抜け、2024年5.33%、2025年5.52%、2026年5.18%と3年連続の5%台です。5%台はバブル期以来、約30年ぶりの水準帯になります。
2026年は前年から妥結額で462円、率で0.34ポイント縮小しました。 高水準を保ちつつ、伸びのピークは2025年だった形です。 産業別では金融・保険6.48%、建設6.45%、情報通信6.41%が高く、運輸3.44%、卸・小売4.41%が低い開きがありました(厚生労働省の同資料第1表、2026年)。
長期比較の3つの断層
60年の系列をひとつながりに読む前に、統計上の断層を確認します(厚生労働省・同第2表の注記)。
- 集計対象が2004年に変わりました。2003年以前は東証・大証1部上場かつ資本金20億円以上・従業員1,000人以上、2004年以降は資本金10億円以上・従業員1,000人以上です。
- 平均方法が1980年に変わりました。1979年以前は単純平均、1980年以降は組合員数による加重平均です。
- 物価の前提が違います。1974年の32.9%は物価が20%を超えて上がる中での数字です。名目の賃上げ率だけを並べても、実質的な意味は同じではありません。
「歴史的高水準」という表現は、これらの断層を踏まえると、同一基準で比較できる2004年以降の系列内で言うのが妥当です。
中小企業・ベアで見ると数字は小さくなる
同じ2026年春闘でも、集計の切り口を変えると水準が下がります。 連合「2026春季生活闘争 第7回(最終)回答集計」(2026-07-03公表)では次のとおりです。
- 全体(5,368組合の加重平均): 16,400円・5.01%
- 300人未満の中小組合: 12,866円・4.69%
- ベア相当(賃上げ分が明確に分かる組合の賃上げ分): 3.50%
厚労省集計(大企業428社・5.18%)との差は、母集団と集計主体の違いによるものです。 「春闘5%」という見出しの数字が、定昇込み・大企業中心であることを踏まえると、平均的な労働者の基本給の底上げ幅はそれより小さいと読むのが妥当です。
なお、春闘の妥結結果は交渉の結果であり、実際に支払われた賃金の統計ではありません。 マクロの賃金が物価に追いついているかは、毎月勤労統計の実質賃金で確認します。 この見方は名目賃金と実質賃金の違いで解説しています。 賃金の絶対水準は年齢別の平均給与、法定の下限は47都道府県の最低賃金一覧が参考になります。
まとめ
- 2026年春闘の民間主要企業は妥結額18,167円・賃上げ率5.18%で、3年連続の5%台でした(厚生労働省、2026-07-31公表)。
- 60年の推移では、1974年の32.9%を最高に、バブル期5.94%、2003年の底1.63%を経て、2002~2022年は約20年間1.6~2.3%台が続き、2023年から急伸しました。
- 妥結額は定期昇給込みで、ベア相当(連合集計3.50%)より大きく出ます。集計対象も大企業428社で、中小組合(同4.69%)を含みません。
- 集計基準は2004年と1980年に変わっており、それ以前との比較は同一条件ではありません。