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名目賃金と実質賃金の違いは?毎月勤労統計の読み方を解説

・ 文責: 数字で読む編集部

給与の額面が増えても、同じ金額で買える財やサービスが増えたとは限りません。 賃金の変化を読むときは、実際に支払われた額の動きを示す名目賃金と、物価変動を除いた購買力の動きを示す実質賃金を分けます。

厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和7年分結果確報 参考資料」によると、事業所規模5人以上、調査産業計、就業形態計の現金給与総額は、2000年から2025年までに名目賃金指数が1.7%上昇した一方、実質賃金指数は14.0%低下しました。 この差は個人の給与履歴ではなく、調査対象となる労働者1人当たりの集計平均を物価調整した結果です。

名目賃金と実質賃金の違い

毎月勤労統計で名目賃金を見る代表的な項目が、現金給与総額です。 厚生労働省「毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査)調査の概要」によると、現金給与総額には定期給与、残業代、賞与などが含まれ、退職金は含まれません。 所得税や社会保険料を差し引く前の金額なので、手取り収入とも異なります。

一方の実質賃金指数は、名目賃金指数を消費者物価指数で割って求めます。 厚生労働省「実質賃金の計算方法について」では、購買力を測る系列に、総務省統計局の消費者物価指数のうち「持家の帰属家賃を除く総合」を使っています。 帰属家賃とは、持ち家を自分で借りているとみなした場合の家賃相当額です。

したがって、名目賃金が増えても、その伸びを物価上昇が上回れば実質賃金は減ります。 反対に、名目賃金の伸びが物価上昇を上回れば、同じ物価尺度で見た購買力は増えます。 支出側の名目と実質については、家計調査の名目と実質の読み方でも同じ物価調整の考え方を確認できます。

長期比較で分かる購買力の変化

長期の水準を比べると、名目と実質の差がはっきりします。 厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和7年分結果確報 参考資料」の2020年平均を100とする接続指数では、名目賃金指数は2000年の109.8から2025年の111.7へ上がりました。 この起点と終点の単純比が1.7%増です。

同じ資料の実質賃金指数は、2000年の113.9から2025年の98.0へ下がりました。 こちらの単純比は14.0%減で、現在の接続指数では、平均的な賃金の購買力が起点を下回ったことを示します。

年ごとの増減でも、名目の上昇と実質の上昇は一致していません。 同じ厚生労働省の確報参考資料によると、2022年から2025年までの名目賃金は順に2.0%増、1.2%増、2.8%増、2.3%増でした。 一方、実質賃金は同じ各年に1.0%減、2.5%減、0.3%減、1.3%減でした。 この期間は名目賃金が毎年増えても、物価を除いた指数は毎年低下しています。

ただし、この長期系列を同じ労働者の追跡記録とは読めません。 厚生労働省の同資料では、2004年から2011年までの指数を時系列比較のための推計値とし、2018年には常用労働者の定義を変更しています。 雇用形態や産業構成の変化も平均値に影響するため、実質指数の低下を全労働者の賃金低下と置き換えることはできません。

月次の実質賃金がプラスでも判断を急がない

足元の前年同月比は、長期の水準とは別の問いに答えます。 厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和8年5月分結果速報」と「令和8年6月分結果速報」によると、2026年1月から5月までの実質賃金は順に0.7%増、2.0%増、1.4%増、2.0%増、1.4%増で、6月速報も1.6%増でした。 少なくともこの半年は、前年同月比で名目賃金の伸びが物価上昇を上回っています。

しかし、「半年間プラスなら持続的な回復が確定した」とは言えません。 厚生労働省の2026年6月分速報では、現金給与総額は531,677円、前年同月比は名目3.4%増、実質1.6%増ですが、この月次値には賞与が含まれ、速報は後日の確報で改訂される可能性があります。

隣接する月の原指数だけを比べると、賞与の影響を賃金の基調と誤認しやすくなります。 厚生労働省「令和8年5月分結果速報」の時系列表では、2025年の名目指数が5月の94.7から6月の161.5へ、11月の98.5から12月の198.6へ上がっています。 短期の方向を見る場合は、まず前年同月比を使い、必要に応じて季節調整済み系列や所定内給与も確かめます。

毎月勤労統計を読む順序

公表値は、次の順序で確認すると意味を取り違えにくくなります。

  1. 対象範囲を確認します。

厚生労働省の調査概要によると、全国調査は常用労働者5人以上を雇用する約200万事業所から抽出した約3万3,000事業所が対象です。 見ている系列が調査産業計か特定産業か、就業形態計か一般労働者かもそろえます。

  1. 賃金の種類を確認します。

現金給与総額には賞与と残業代が入るため、基本給に近い動きを知りたい場合と目的が異なります。

  1. 比較の軸を決めます。

購買力なら実質、受け取った額面の動きなら名目を使い、長期の指数水準と短期の前年同月比を混ぜません。

  1. 速報と基準を確認します。

厚生労働省が2026年8月5日に公表した6月速報は2020年基準の値です。 総務省統計局「2025年基準消費者物価指数の公表予定」によると、2025年基準への切替に伴う遡及結果は2026年8月7日に公表されたため、基準の異なる指数水準を直接つなげません。

標本の入れ替えも確認点です。 厚生労働省の毎月勤労統計では、2026年1月の標本部分入替により現金給与総額に1,582円、率にして0.5%のギャップが示されました。 2018年以降の賃金指数は標本交替による遡及改訂をしていないため、境目の変化をすべて賃金実態の変化とはみなしません。

実質賃金指数では分からないこと

実質賃金指数は、世帯ごとの生活費や個人の手取りを直接示す指標ではありません。 税金と社会保険料を引く前の労働者1人当たり平均を、共通の消費者物価指数で調整しているからです。

そのため、購入する品目や住居形態が異なる世帯では、実感する物価変動も異なります。 同じ個人の昇給率を知りたい場合や、税負担を含む家計の余裕を確かめたい場合は、実質賃金指数だけでは答えが出ません。

それでも、名目賃金と物価のどちらが速く動いているかを、同じ定義で時系列比較する用途には使えます。 対象範囲、賃金の種類、比較軸、速報と基準をそろえることが、その用途を守る条件です。

まとめ